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2025.02.16

③野きろの杜「アウトドアの要素が生む効果」

サケハシ
皆さんこんにちは!今回で「野きろの杜」は最終回です。「美しい街」を作るという石田さんの想いは、自然と調和した暮らしを生み出す工夫へと発展しました。その一環として誕生したのが、アウトドアを取り入れた住環境、今回はアウトドアの要素が生む効果と石田さんの未来のビジョンについてです。

―アウトドアの要素も「野きろの杜」の独自性になっていますよね。

 

石田さん:2012年頃から分譲地のデザインに携わっていますが、美しい街、美しい分譲地をつくりたいと思ってきました。ずっと温めてきた想いを「野きろの杜」で形にしました。

そのうちの1つが、室内にあるリビング(インドアリビング)と屋外に設けられたリビング(アウトドアリビング)を繋ぐ「中間領域」がある暮らしをつくることでした。インドアウッドデッキや窓を開けたら外と繋がり、屋根がかかっているため濡れないような空間を作りました。

家と庭で家庭をつくることで、その暮らしが愛着に変わる。田舎ならではの広い土地を生かした「家庭」の作り方が非常に重要だと考えています。

 

石田さんが提唱する、インドアリビングとアウトドアリビングを繋ぐ新しい暮らし「中間領域」
※野きろの杜提供

 

―そうしたなかでアウトドアブランドのSnow Peak様と連携が進んだのですね。

 

石田さん:土地をゆったりと持てる田舎だからこそアウトドアリビングの大切さを訴えたかったんです。インドアリビングとアウトドアリビングのある暮らしを提案したかった。

 

そこでアウトドアブランドでありながら暮らしにもアウトドアを取り入れる事業をしているSnow Peakさんに協働を持ちかけました。Snow Peakさんは前から野遊びをコンセプトとした家づくり、街づくりをしており、2018年には新潟市江南区で分譲地を展開していました。その際に関わりもありました。

 

それに加え、コミュニティづくりというソフト面の強化も視野にありました。Snow Peakさんをきっかけにアウトドアの世界観で住みたい人が集まれば、コミュニティが作りやすくなると考えました。

 

 

―どのような形で連携をしているのですか。

 

石田さん:アウトドアリビングや広場の監修を担ってもらい、野きろの杜の本格オープンでいったん区切りがつきました。

 

今は商業エリア「Mall Site野きろ」内にあるアウトドアブランドのショップで、Snow Peak社製品をメインの一つとして取り扱っています。「暮らしに野遊びを足す」というコンセプトで店舗名を「notus」としており、他にも2社、僕の好きなアウトドアブランドをメインで扱っています。

 

焚き火を囲み、温かな繋がりが生まれ笑顔が溢れるイベントも
※野きろの杜提供

 

ちなみに、弊社(株式会社石田伸一建築事務所)で野きろの杜に住宅を建てる場合、アウトドアギアが50万相当分、自動的にインクルードされるんです。

なので、アウトドアが初めての人に対してもスタッフが講習をできるようにしています。例えば、テントなどアウトドア用品の使い方とかですね。こういう講習も住民とのコミュニケーションやコミュニティを大事にしたいという思いでやっています。

Snow Peakさんはキャンプ文化を広めようと「野遊びマイスター」という取り組みをずっと続けていますので、スタッフの研修でも協力しています。

 

 

―街の人のコミュニティでキャンプやアウトドアの話題を出しやすくなりますよね。

 

石田さん:そうなんです。街の人同士で教えあいをしたり、「何を買ったんですか?」とアウトドア用品の話になったり、「実際に作ってみたものですけど、よかったらどうぞ」といった物々交換が生まれるんですね。だから弊社で家を建てるお客さんはキャンパーになるのか、もともとなのか分からないですが、キャンパーの方が多いかなと思います。

 

あとは、現代はIHのクッキングヒーターが多くて、火が怖い子供さんが多くいます。そのために火の危険性を知り、火起こしが経験できる場を作らないといけないと思っています。こういった経験が子育てにおいて重要でもあるんですよね。

 

家族とゆったりした時間を過ごし、自然との対話もできます。だから、ここではキャンプを大切にしています。こうしたことをSnow Peakさんでは、「人間性の回復」と呼んでいます。

 

 

―様々なイベントも行っているそうですが、幅広い年齢層が楽しめる工夫は何かありますか。

 

石田さん:老若男女問わず楽しめるように、季節ごとの日本文化に触れるという取り組みを大事にしています。

 

例えば、1月なら福笑いや書初め、凧揚げなどをやったり、まちびらきの振る舞いとして、みんなでお雑煮を食べたりしています。

節分には衣装を着た鬼が来て豆まきをしたり、ひな祭りでは譲っていただいた大きいひな人形を飾ったりします。4月は桜餅を食べて、子供の日には譲っていただいたこいのぼりを広場に揚げています。こういった季節ごとの守るべき文化を定期的にやっているんです。

 

そのほかにも、家の骨組みが組み上がったら工事の安全と無病息災を祈願する「上棟式」をして、餅まきを行います。僕自身、こういった日本の伝統的な文化が好きだからというのもありますが、餅まきをすると地域の方に挨拶する機会が生まれるので、とてもいい文化だと思っています。

 

日本の美しさは年齢問わず感じるもの。だから木・瓦・石といった自然の素材を使った家々が立ち並ぶ美しい街並み、風景、空間とみんなが笑顔になるコミュニティを作ることにこだわって工夫しています。

 

野きろの杜で行われた上棟式。多くの人々が集まり、温かな交流が生まれる瞬間
※野きろの杜提供

 

―石田さんはヨーロッパの研修に行ったとブログで拝見しましたが、環境意識の面でどんなことを感じましたか?また、野きろの杜で活かしているところはありますか?

 

石田さん:ヨーロッパ研修でドイツ、スイス、オーストリアに行ったとき、30年先を見据えた生活が成り立っていることにすごく衝撃を受けました。もしかすると、日本は追いつけないのでは?と思うくらい刺激的でした。

 

一方で、野きろの杜の取り組みは間違いではないと気づくことができました。

野きろの杜では、街の中心に焚火ができる広場を設け、そこでイベントを毎月開催しています。人が自然と集まり、会話が生まれる環境の中で、助け合いも生まれてきます。

コミュニティづくりの核の一つとしてアウトドアが大きな役割を持っているんです。

そういった野きろの杜だからこそ自然が好きで、無駄なエネルギーは使いたくないという考えを持った方が多く集まってくれます。

 

 

―環境意識を向上させる取り組みとして、今後どんなことをしたいと考えていますか?

 

石田さん:将来的には電気自動車のシェアカーを導入したいと考えています。また、今回は多雪地域という点で商業施設や賃貸住宅に太陽光発電を入れることはやめましたが、次に手掛ける分譲地があれば、太陽光を導入する取り組みを行いたいです。

最終的には、街のエネルギーを循環型の再生エネルギー100%で賄いたいと考えています。

 

ヨーロッパではサイクルの意識が高いため、新築が少なく、リノベーションが多いです。当たり前のこととして、ものを大事にするんですね。

野きろの杜でも、すべてに「愛着」を持ち、この場所に長く住んでいただけることに重点を置いています。

地域の材料で、地域の職人で、その地域に建てる―。「地材地建」に力を入れるのも、そういった理由です。

マンションでは共益費や修繕積立を払う管理組合がありますが、野きろの杜ではインフォメーションセンターを置きました。住んでいる方が家の修繕をしたい場合には、インフォメーションを通して大工や職人が駆けつけるような体制を整えたいと考えています。

 

 

―野きろ杜の今後のビジョンと石田さんの目標について教えてください。

 

石田さん

僕の建築は「地材地建」「long loved design(長く愛せるデザイン)」という想いがあります。100年後も美しい街並み、風景になっていてほしい。野きろの杜が30年後、最終的に100年後も美しい場所・街並み・風景として残っていてほしい。それが未来の大きなビジョンです。僕たちはそのための活動をやっています。

 

家への愛着を持ってもらうことが大切です。家が古くなって使えなくなるからではなく、住みにくくて愛着がないために、クラッシュアンドビルドが起きてしまうことがないようにしたいと思っています。

 

野きろの杜を住み継いでいける街にしていきたいんです。

「住み継ぐ」というのは、次の世代が住んでもいいし、オーナーが変わってもいい。

オーナーが変わっても住み継いでくれるというのは、やっぱり街や家の美しさ・性能がしっかりしているからだと思います。ここのブランド価値や不動産の価値が維持されれば、住みたいという人が増えていくだろうと考えています。

住み継いで行ける街にしたいというのが今後のビジョンであり、目標です。

石田さんのたすいち

地材地建

「野きろの杜」は、ただ家を建てる場所ではありません。自然と人、人と人がつながり合う場所として育っています。その核となるアウトドアの要素は、人々の心を豊かにし、100年先を見据えた街づくりを支えています。取材を通じて、この街で暮らす人々が紡ぐ縁の温かさに触れ、私たちも豊かな暮らしとは何かを考えさせられました。

 

■野きろの杜 https://nokiro-no-mori.jp/

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